4 インタビューを受けさせるための詐欺的手口

(1)利用された「上智大学」と「学術研究」

 出崎が被害者らに研究協力を求めてアプローチしてきた方法は、主にメールによるものでした。アプローチの具体的方法や文面は様々ですが、全てに共通していたのは、「上智大学」の「学術研究」として、協力を依頼してきたことです。出崎が最初にアプローチした山本優美子(上智大学の卒業生)に送ったメールには、インタビューについて次のように書かれていました。

 「大学院生として、私には、インタビューさせて頂く方々を、尊敬と公平さをもって紹介する倫理的義務があります。これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」(2016年5月24日)

 「公正性かつ中立性を守りながら、今回のドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして大学に提出する予定です」(同年5月31日)

 もし仮に、一人の映像作家が自身の自主制作映画のためにインタビューを依頼してきたのであれば、私たちは応じていなかったでしょう。映像作家の自主制作映画には、法律以外に何の制約も及びません。他方、出崎の場合には、「学術研究」であるため、研究協力者は学術倫理によって保護されるという期待が存在します。しかも、「上智大学」という権威ある学術機関の信用が、この期待を裏付けています。そのため、私たちは出崎の研究に協力しました。つまり、「上智大学」と「学術研究」の二つが徹底的に利用されたのです。出崎と指導教官中野は、この双方に対する背信を働いたといえます。

(2)奇妙な名刺が意味するもの

 インタビューのプロセスには、出崎の数々の欺瞞が仕込まれていました。まず、上智大学の校章が大きく描かれた出崎幹根の名刺(画像参照)には、肩書きに「大学院生」とだけしか書かれておらず、所属の研究科やコースが不明です。そのうえ、住所には四谷校舎の代表のものだけが記載され、連絡先として意味をなさないものでした。E-mailのアドレスも、XXX.sophia@gmail.comという、大学が正規に発行して学生に割り当てるアドレスを擬装するという手の混んだものでした。もちろん、大学が正規に発行するアドレスのドメインは、XXX@sophia.ac.jpです。この奇妙な名刺が示しているのは、上智大学の権威によって自分たちを信用させたいが、決して、身元につながるような情報は与えたくないという意図と作為です。出崎に同行した二人の大学院生も、同様の名刺を残しており、出崎と共犯関係にあります。

(3)「研究内容説明書」と「企画書」を見比べよう

 出崎は、「人を対象とする研究」において研究対象者に交付することが義務付けられている「研究内容説明書」などの、定められた書式に基づく書類を一切見せていません。被害を受けた一人である櫻井よしこに対しては、唯一、「企画書」なる文書を提出していますが、そこにも「研究内容説明書」において明示が義務付けられている「研究責任者」「研究への参加と撤回」「予測されるリスク」「研究成果の公表」などの重要事項がすべて省かれています。以下の二つの文面を見比べて下さい。

上智大学が研究者に課している「研究参加説明書文例」
櫻井よしこ宛てに送られた出崎の「企画書」

(3)最も隠蔽したかった「研究責任者(指導教員)」の名前

そこまでして出崎が隠蔽したかった最大の事項は、研究責任者(指導教員)の名前です。その指導教員中野晃一教授は、従前より私たちを敵対視する言動を繰り返していました。4月19日、参議院議員会館で開かれた「安倍政治を終わらせよう!」というスローガンを掲げた集会での講演では、映画「主戦場」の宣伝をする中で、「この顔見てるのは苦痛だなっていう人たち」などと、公の場で露骨に嫌悪の情を示してののしっていました。中野教授は映画「主戦場」の中でも、出演者の中で最長の時間を使って私たちを一方的に批判しています。さらに、上記講演の中で、「今になって騙されたなんだって言ってるけど、全部自分がしゃべっている話なんですね」などとも言っています。つまり、中野教授は映画に使われているのが「自分がしゃべっている話」でありさえすれば、どのように研究対象者を騙しても問題なしとする研究倫理感覚の持ち主なのです。

こうして出崎は、研究計画の全容について事前に誠実かつ十分に説明する研究倫理上の義務に意図的に違反することによって、被害者たちから出崎の攻撃意図を見抜く機会を奪い、被害者たちを攻撃する映画の完成に漕ぎつけたのです。

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